最近本屋に行くと見ることの多い『起業の科学 スタートアップサイエンス』という本。
著者の田所雅之さんは日本で3社、米シリコンバレーで4社の起業を経験してきたという経歴の持ち主のようです。
私も起業に興味があり、また、それを学問的科学的に分析しているかのようなタイトルに惹かれて読んでみました。
レビューを書いていきます。

目次
起業の科学?企業を科学するとは?
本書によれば起業には2種類あるそうです。
- 既存市場に参入し、細く長く成長を目指すもの
- 既存市場を再構築し、短期間で急激に成長して莫大な利益を生むもの
です。
前者は多くの中小企業、後者はアップルやフェイスブック、最近の日本だと「ゾゾタウン」のスタートトゥデイが該当しますね。
本書は後者(②既存市場を再構築し、短期間で急激に成長して莫大な利益を生むもの)について、傾向を把握し、解説したものです。
本書の記載を実践すれば上記企業のような急成長を「科学」的に再現できるといいます。
『起業の科学』レビュー:多すぎる気になる点
はじめに、というかこれがメインになってしまいますが、本書のあんまり受け入れられなかった点を述べていきます。
- 専門用語なのか独自用語なのか、開幕から理解に躓く言葉や横文字が飛び交いまくっている
- 根拠が不十分
- 線引きが難しい概念がある
- 著者(田所雅之氏)の経歴が不明確
①専門用語なのか独自用語なのか、開幕から理解に躓く言葉や横文字が飛び交いまくっている
著者がアメリカかぶれなのか語彙力不足なのか不明ですが、
スタートアップ(起業の序章)やソリューション(解決)、ドリブン(ありき)、パラダイムシフト(既存概念の再定義)、キャズム(広く普及するための障害となる溝)など、
定義や説明が必要そうなことばが、なんの前置きもなくなく平気で飛び交います。
「パラダイムシフト」という語は比較的通じそうな言葉とはいえ、哲学畑の専門用語ですよね?初出の専門用語はまず定義を述べてから使え、って学部で習うと思うのですが。
シュリンクする市場より縮小する市場の方がわかりやすいし短くて済むから良いと思うのですが。
こういう文章が多すぎて、もはや横文字をひけらかしたいだけのように思ってしまいました。
専門用語、ビジネス用語や横文字に疎いと読むのにストレスが溜まります。
「科学」を銘打ち、更に大衆向けに出版している本であるなら、最低限馴染みがないなと判断できる初出の単語は初出時に説明すべきだと思いますね。
まあ単に私がもの知らずのだけな可能性もあるので、その場合は申し訳ないですが・・・。
②根拠が不十分
引用やデータが多いものの、それらの根拠が明示されていない。
経験則なのか、根拠のないものなのか、権威ある研究者や起業家の言葉なのか参考文献すらないのでわかりません。
出典が不明だとエッセイなのかな?ってなります。
③線引きが難しい概念がある
これは、明確な区別がつかないような概念を別概念として用いていますね。
たとえば、本書ではスタートアップとスモールビジネスといった言葉が用いられます。
前者は「既存の市場を再定義する性質を持つもの」、
後者は「既存市場に頼る性質をもつもの」と説明されています。
しかし、そう定義してもなお、どこからどこまでが既存市場を書き換えるものなのか、既存市場依存のものなのか、定義してもその線引きが曖昧なものもあると思います。
もう少しそこを掘り下げての説明が欲しかったですね。
こういうは、学問的な定義付けの世界ではままあることなのでそこまでの批判ではないかもしれないですが。
④著者の経歴が不明確
本書には、著者の信頼に値する経歴がありませんし、調べても著者の学歴・職歴が判然としません。
学歴不要論が一般的に受け入れられ始めてきたのはわかるし、何よりビジネスの世界では特にそうかもしれないとは思います。
しかし、本(、とりわけ若干の専門性を帯びた分野の本なら殊更)に関しては、学歴や経歴がしっかり明記してあるとやはり安心感を覚えるものでしょう。
また、学歴不要論は記載が無くてもOKと同義ではないかなと。ゾゾタウンの社長は最終学歴(早実高卒)をしっかり明記しているからこそ説得力・安心感がありますよね。ホリエモンもよく中退と言ってますし。
胸を張れるものでもそうでなくても、信用性の担保の観点から記載はして欲しかったですね。
これは私が学歴厨だから言っているわけではありません(学歴厨ではありますがw)。
「起業経験者」という肩書が持つ説得力のなさ、信頼度の低さから言っています。
何よりも、著者が経験したとする「スタートアップを数社経験」=「起業経験」というものは、
言ってしまえば誰でもできます。
もっと言えば、コンサルタントのような資格のない経歴/肩書同様、経験すらなくとも自称できてしまうわけです。
なので、著者が「起業のスペシャリスト」であることを信じるに値する情報が欠けているように思われます。
私は誰の意見を聞いているのか?これが不明確だとなかなか受け入れ難いところがありました。
いくつかは改善されている
なお、以上に述べた点より、
①横文字が飛び交う③線引きが難しい概念がある
という点が大幅に改善された『入門 起業の科学』が後発しています。
改善された、というのは本屋で立ち読んで抱いた印象です。
このブログ見ました!?ってくらい文脈的に美しくない横文字のぶっこみは減っていました。
そして、スタートアップとスモールビジネスの差異についてはより詳しく分析がなされてました。田所さんこの記事見ました!?(再)
また、④著者の経歴
については、ご自身で書かれたのか、田所雅之氏のWikipediaで確認できるようになったようですね。
そして、更に詳しい経歴を調べ、なお疑問を抱いた方もいるようですね。参考までに。
起業の科学 田所雅之氏の経歴は多分ちょっと嘘/株式会社ごりらぼ-note
他のレビューを見るとあんまりこういうことに突っ込んでる人を見受けられないから、大衆的には気にならないのでしょうが。
しかしながら、後述するように本書は素晴らしい内容もあります。
『起業の科学』レビュー:良かった点
以上のような悪い点はありましたが、
「起業に興味はあるがそのアイデアの構築方法、資金調達方法、起業家マインドについて全くのド素人だ」という人には有益な本だとも思います。
実際私がそうでしたが、漠然と起業についての憧れや興味があるものの、アイデアの出し方すらわかりませんでした。世の中の多くの社長は何を考えているんだろう、と。
こんな状態でどうやって起業までもっていけばいいかわかんないですよね。
どんなアイデアで、どんな人を募って、どんな資金調達をして起業するの???
本書を読めば、「ああ、こういうことなのか」とおおよその流れがわかるようになります。
また、例示に世界的企業の逸話を多用しているので、わかりやすく面白いです。
フェイスブックのザッカーバーグやマイクロソフトのビルゲイツ、アップルのジョブズなど、多少なりとも本書を読もうとする人が知らないことはない人の創業期の逸話はためになるし、何より面白い。
一見悪いアイデアが世界を変えた
宿泊予約のAirbnbが立ち上がったのは2008年。犯罪大国のアメリカでは赤の他人の家に泊まる、他人を自宅に止めるという行為は、まさにバッドアイデアそのものだった。
Airbnbに限らず、私たちたの生活の一部となっているようなスタートアップのサービスの多くは、一見悪く見えるアイデアから始まっている。(中略)ークックパッド、Uber、Snapchatの例が続くー
あなたは、Unerのように、誰もが当たり前と思ってきたことに疑問を投げかけることができるだろうか。この問いができるかどうかが、あなたのスタートアップが世界を変える存在になれるかどうかの最初の分かれ道になる。
引用:『起業の科学 スタートアップサイエンス』p29-p30
『起業の科学』レビュー:おわりに
本書は5章から成り立ち、279ページもあります。内容はおおよそPDCAの順序で章付けされていますね。
1章は導入段階ではあるものの、私のような素人レベルでは、1章(アイデア論)を読めば十分だと思います。
2章以降は、1章で出した方向性の純度を高めるための繰り返しに過ぎなかったり、実践段階の問題が多くなってくるので、起業経験者向けの内容だと感じました。
時間が無い人や、本書の厚さに抵抗がある人でも1章だけでも読んでみてはどうでしょう。
なお、本書の問題を
起業アイデアを出したところで・・・
ちなみに、本書ではアイデアの出し方やアイデアの妥当性、起業してからの方向性について学べますが、アイデアを出したところで実現する方法は書いてありません。
既にある程度の財力があれば、外注によって実現することが可能です。
または、人脈ですね。開発スキルを有した友人がいればこの上ありません。
しかし、多くの人はそうではない方だと思います。
個人的には、自分で費用を抑えて開発するために重要になってくるものがプログラミングだと思います。
ただ、いきなり、プログラミングを学ぼうとしても、「そもそもプログラミングって何?何ができるの?」と全くわからない状態だと思うので、そういう方はこちらの記事も合わせてご参照してみて頂けると、ちょっとはお役に立つかもしれません。
ここまでお読みいただきありがとうございました。